高校生部門 優秀賞

「私たち」の拉致問題

学校法人濱名山手学院神戸山手女子高等学校 3年 桑野 葵

「お母さん!お父さん!助けて!」
めぐみさんの声が船内に響く。アニメの台詞だと分かっていても、堪らず顔を背けた。しかしこのアニメ「めぐみ」はフィクションではなく、今も終わらない現実の問題なのだ。

もし私が十三歳のとき、めぐみさんと同じ目にあったら……。アニメを視聴してそう考えたとき、もっと拉致問題について知らなければならないと思った。私はすぐに、めぐみさんの母・早紀江さんの著書など、学校の図書館にあった関連する本を読み漁った。しかし、分かったのは無情な事実だけだった。北朝鮮からの僅かな情報や、日本政府の不安定な対応に翻弄される被害者家族たち。忘れられない話がある。横田さんご夫婦は渡韓した際、国境付近の北朝鮮の村を見に行ったことがあるそうだ。早紀江さんは思わず、「めぐみちゃーん!」 と、村に向かって絶叫したという。当然、返事は無い。正に、拉致問題において被害者家族、そして私たちがいかに無力かを象徴するエピソードだと思った。

「まず知ることが大事だ。そして、私たち一人一人が問題意識を持って声を上げよう。」

これは、世界の様々な課題を解決しようとするときに決まって「私たち」に呼びかけられる言葉だ。私も、それが必要だと思って本を読んだり、インターネットで情報を集めたりした。しかし、拉致問題は解決するのか、どうやって解決するのか、全く分からなかった。めぐみさんが拉致されてからもう四十年余りが経つ。それでも、希望の光ははっきり見えてこない。親子の再会は年々困難に、そして不可能にもなっている。そして、今の「私たち」にはどうすることもできない。

「拉致問題について私が伝えられることがないように思うのです。」この作文を書くにあたって、私は学校の先生にそう相談した。先生の返答はこうだった。「現実、この数年の間に拉致被害者が日本に帰ってくる可能性は高いとはいえないだろう。

けれど、君が生きている間にその時が訪れるかもしれない。今君が考え、悩んだことは無駄じゃない、と私は思う。」
私ははっとした。もちろん、愛する我が子ともう一度抱き合うことが現在の被害者家族の願いだ。しかし、拉致問題が進展するのは私が大人になってからかもしれない。家族、さらに被害者本人も亡くなった後、私はそれを無視していいのだろうか。今の私が感じた悲しみ、怒り、そして責任を常に持ち続け、解決に向けて尽力しなければならないのではないか。さらに、社会全体がその思いを共有し、協働することも重要だ。拉致被害者とその家族たちの声は「私たち」の声だ。北朝鮮による拉致問題を「私たち」は永遠に忘れない。